Discover 栃木 温泉文化遺産(温泉文化史)
 
 鬼怒川温泉

  温泉マニアがスルーする温泉は、日光温泉と鬼怒川温泉でしょう。
  旅館は減っても浴場の数が増え、源泉の供給が追いつかないことから、加水・循環は当たりまえ。
  それを承知で、鬼怒川温泉をめぐります。
  めぐってみると、マニア受けする良い温泉や、江戸時代の歴史スポットの多さ、産業遺産もあり、
  鬼怒川の渓谷美もあいまって、魅力的なスポットです。


○鬼怒川温泉の初期源泉

 <大滝>

  大滝は、国道121号鬼怒岩橋直下にあります。
  大滝河川遊歩道が整備され、大滝の観瀑台が設けられています。
  大滝より上流の集落を上滝、下流の集落を下滝と言い、滝温泉や下滝温泉などと言われていました。

 <滝鉱泉>

  昔の温泉本を見ると、
  「「温泉宿は大出氏なり」 湯槽4カ所。
   源泉名「滝の湯」鬼怒川南岸砂石中より湧出。宝暦年間に之を発見、浴場を設ける。」

  発見は、元禄5年(1691年)と宝暦2年(1752年)の説があり、
  旧藤原町は、元禄5年(1691年)を採用していました。(※1691年は元禄4年だと思うのですが)
 

  川を挟んで右岸が日光神領、左岸が宇都宮領であり、
  江戸時代、滝鉱泉は神領であり、日光詣帰りの諸大名や 僧侶達のみが利用可能な温泉で
  一般には入浴できませんでした。

 <藤原鉱泉>

  昔の温泉本を見ると
  「「温泉宿は星氏なり」 宿は1軒のみ。浴場は川の岩石を開墾し2カ所。遊水が混す。
   源泉名「藤原の湯」鬼怒川の北岸岩石間より湧出。
   明治2年に藤原の湯を発見、明治12年3月浴場を設ける。」

 <鬼怒川温泉>

  昭和2年に「滝鉱泉」「藤原鉱泉」両者を併せて、鬼怒川温泉とされました。

※<元湯星のや>(2010年秋、廃業)
 
  藤原鉱泉の「元湯星のや」は「湯の滝温泉 星野屋旅館」の古い看板が壁にかかってたので、
  最初は混乱しました。分析書は「宝の湯」でした。
  星のやは大正14年木造の旅館が建てられましたが、
  明治24年発行の「下野鉱泉誌」にすでに星氏の温泉宿の記載があります。
  星のやは、残念ながら2010年秋、廃業しました。

     

 「元湯温泉の由来」
  宝の湯は川づりで川の中から湧出せる温泉をみつけた初代が県に申請したのが始まりです。
  その時代は会津西街道と称しても一軒の家なく、星のやが蔵を建て、その後7年ほどのちに木造三階建て旅館が出来ました。

 <元湯通り>廃墟

  会津西街道の旧鬼怒川温泉駅前を通る元湯通りは廃墟の宿が列をなしています。
  水明館取り壊し、鬼怒川観光ホテル東館閉館、きぬ川館閉館、第一ホテル閉館、星のや廃業、
  ゆば御前みやざき宿泊休止。
  日光市藤原支所(旧藤原町役場)、藤原消防署移転。
  旧鬼怒川温泉駅にあった公衆トイレも撤去。
 
  「藤原の湯」発祥の宿がなくなり、今後は星のやは伝説となっていくのか。。
  藤原町長を務め鬼怒川温泉全体のことを考えた宿、まさかその宿自身が廃業するとは。。。
  巨大温泉ホテルが再生されてきた中、古いものを温めて保存・活用していくことも必要と思います。

 水明館取り壊し時                   鬼怒川観光ホテル東館閉館後 
        

 きぬ川館廃家電等ゴミ撤去後                     第一ホテル閉館後
        

 星のや廃業  
    

 ゆば御膳みやざき(宿泊休止、飲食・日帰り・休憩は継続)
   

 日光市藤原支所(旧藤原町役場)閉鎖 旧鬼怒川温泉駅公衆トイレ撤去
     

 日光交通湯西川線
  鬼怒川温泉駅から、川治温泉・湯西川温泉へ路線バスが走ります。
  元湯通りの「藤原総合支所前」「温泉中央口」「第一ホテル前」のバス停は廃墟のみ。
  


○鬼怒川温泉の自家源泉
   、  
【高徳】
 前鬼怒川かご岩温泉旅館(かご岩温泉) ※2022年1月3日閉館
 鬼怒川カントリークラブ(鬼怒川ゴルフ温泉)
 民宿まつや(愛泉の湯:閉館)
 志季大瀞(志季大瀞:温泉非該当)
 湯處すず風(鬼怒川大瀞温泉)
 あけび(鬼怒川大瀞温泉) 

【大原】
 リブマックスリゾート鬼怒川(釈迦の湯)
 日光市藤原高齢者センター(市有鬼怒川右岸開発源泉:閉館更地)
 仁王尊プラザ(仁王尊の湯) →2019年6月
  ※花茶寮(入浴廃止→閉館)とホテルハーヴェスト鬼怒川に配湯。
 ホテル長寿の湯(ビラ・鬼怒川:閉館)
 鬼怒川パークホテルズ(パークホテル)

                釈迦の湯                     仁王尊の湯
      

【滝】
 ホテルニューおおるり(瑠璃の湯:閉館)
 ほてる白河湯の蔵(羽衣の湯)
 湯けむりまごころの宿一心舘(一心舘)
 鬼怒川温泉ホテル(温泉ホテル1,4号混合泉)
 あさや(子宝の湯)

                 瑠璃の湯  
   

【藤原】
 元湯星のや(宝の湯:閉館)
 おおるり荘(おおるり荘の湯:閉館)

       おおるり荘の湯
  

 ※ 自家源泉でも、大規模ホテルは加水しています。
   良い印象だったのは、
  【仁王尊プラザ】【リブマックスリゾート鬼怒川】 > 【ホテルニューおおるり】 > 【おおるり荘】


○共同源泉

 3源泉とも、分析書の湧出地は同一地番ですが、全て別の源泉です。

【宝の湯】
  星のや(閉館)
  鬼怒川プラザホテル
  ホテルニューさくら(大滝の湯、宝の湯混合泉)

【大滝の湯】(桜ヶ丘温泉利用者組合)
  源泉「大多喜の湯」
  ホテルニューさくら
  佳祥坊福松
  星の宿千春(大滝の湯のかけ流し)
  鬼怒川ライン下り「和船足湯」

【湯の滝】(鬼怒川温泉協同組合)
  鬼怒川プラザホテル
  ホテルキャトルセゾン(閉館)
  鬼怒川第一ホテル(閉館)

  ※鬼怒川プラザホテルは以前は「湯の滝」分析書を掲げていましたが、
   現在は「宝の湯」を自称しています(星のやから引き継いだ?)


源泉「大滝の湯」

 伊東園ホテルニューさくらの駐車場に温泉神社(お湯神様)があります。
 その脇に源泉「大滝の湯」の碑と、源泉が流されています。お湯は貯められなくなりました。
 
 解説では「昭和2年頃「桜田壬午郎」なる人物が計8本の源泉を掘削した内の1本とされる。」

 鬼怒川では珍しく、52.7度の高温で毎分400リットル以上の湯量ですから貴重です。

     

   

 ※プレートにある昔の組合員は、
  佳祥坊福松、東武鉄道鬼怒川保養所、古河電工鬼怒川荘、ホテルニューさくら、
  ゼファー、大橋英三郎、セベルピコ、千寿荘、星の宿千春、ホテルたかはら
  (閉館している旅館多し)

<大滝の湯源泉の現況>

 大滝の湯源泉のプレート内容が古いので、現況を以下に記します(運営会社からの情報に感謝)。

 「大滝の湯」源泉所有者(「自家源泉」の共同管理)は9社あり、22口の所有権のうち、
 ほとんどの所有者は1口ですが、大口所有者は有限会社丸京・株式会社鬼怒川温泉京屋旅館と
 ホテルニューさくらです。

 源泉を大口所有する有限会社丸京と株式会社鬼怒川温泉京屋旅館によると、
 「大滝の湯」の湧出量は毎分450リットル以上、湯温は54度位で、
 機械のトラブル以外で温度低下や湯量の低下は湧出以来ないとのことですが、
 所有源泉は現在は利用や供給はしておらず、流しっぱなしにしているとのことで、
 湯づかいが良い千春では、硫黄臭と白い湯華が認められる良い源泉なのにもったいない状況となっています。

<丸京グループの代表あいさつより一部抜粋>

「丸京グループは、旧来より温泉観光地における様々なビジネスに取り組んで参りました。
 江戸初期に源泉を発見し、山林業と木炭の製造販売を行い、文明開化とともに電力エネルギーへと変換していく中、水資源の供給と水力発電所を積極的に誘致し、電車交通網の発達に伴う一大観光地へ変革に合わせ、旅館ホテル、物産店、駅構内売店、ホテルへの売店テナント出店、ガソリンスタンド、運送業、レストラン、旅館食品残渣のリサイクルを目的とした養豚事業など、時代の最先端を進み、現在に至っております。」

<丸京グループのあゆみ>

 1691年 沼尾重兵衛、鬼怒川右岸にて源泉発見(滝の湯)
 1895年 沼尾源吉、木炭燃料商開業
 1927年 沼尾武次、旧鬼怒川温泉駅前にて丸京物産開業
 1949年 京屋ホテル開業
 1978年 旅の宿丸京開業(丸京グループではなく別法人、旧ドライブイン鬼怒)

有限会社丸京(温泉供給業、不動産賃貸業、不動産売買業、山林業、水資源供給業)
 株式会社鬼怒川温泉京屋旅館(グループ会社)

 鬼怒川温泉を発見した沼尾重兵衛のご子孫が、現在も丸京グループとして事業展開されており、
 鬼怒川温泉全体の発展について心をくだいていることを知って驚くやら感心しました。


鬼怒川ライン下り「和船足湯」

 鬼怒川ライン下り「和船足湯」に源泉「大滝の湯」が利用されています。
 ライン下り利用者のみの利用との掲示があり営業期間のみの利用となります。
 台風等でライン下りが欠航となると、お湯は張りません。

     


星の宿千春

 大滝の湯のかけ流しです。パーフェクトの湯づかい、素晴らしい。

     

     


○さくら通り

      

     


星ケ丘発祥記念碑

 桜田壬午郎は、1930年代、藤原村村長星藤太の新源泉の開発に貢献し、
 開発した源泉を使い温泉付の別荘地として桜ヶ丘を売り出しました。
 「里の宿千春」は別荘を宿として活用しています。
 「伊東園ホテルニューさくら」の名前も桜田から来ています。
 鬼怒川公園駅前に星ケ丘発祥記念碑があります。

 「星ケ丘発祥記念碑
  由来鬼怒川左岸のこの地は、明治初年元町長星藤太翁の祖父次郎作氏が温泉を発見、
  日新の湯と名づけ本町はじめての浴場を設けたことのある旧蹟である。
  昭和初頭の頃、星藤太翁が鬼怒川温泉開発の資金調達に奔走して
  苦心を重ねつつあったとき、強力な資金援助と共に機械堀の技術を導入
  温泉開発並びに星ケ丘桜ケ丘の開発の礎をなした功績、
  東京都渋谷区桜ケ丘の実業家桜田壬午郎氏を記念して、
  ここ小原沢に一橋を架し、桜田橋を名づけられた氏はここに別荘を設けたが、
  これが鬼怒川温泉別荘地開発の端緒となった。
  その後この地は星ケ丘と命名され、前記桜田氏及び第二別館星亥三郎氏、
  栃木県知事小平重吉氏、代議士尾関義一氏、県会議員星功氏、
  片山昇一郎氏、上沢徳治氏、須永藤重郎氏、岩本次郎吉氏等の
  隠れた努力により現在の如く開発されたのである。
  昭和27年には山麓を曲折迂回していた国道121号線の付替え工事が行われ、
  同37年10月には鬼怒川公園駅が改築されて現在に至った。
  然るに公園駅の大拡張と都市計画道路の完成等により、
  由緒ある桜田橋が撤去されたため、
  一碑を建てて星ケ丘開発の隠れた先人の遺徳を顕彰することとなった。
  茫々40余年、黙々として隠れた努力を重ねられた先覚を偲び、
  その功績を讃える次第である。 
     昭和49年4月吉日
                藤原町長 星次郎」
 
    


○鬼怒川・川治観光開発株式会社

 1987(昭和62)年、第三セクターで「鬼怒川・川治温泉観光開発株式会社」は設立されました。
 当時の藤原町町長は、星のや旅館の星光二さん。

 鬼怒川温泉のほとんどの宿は、「鬼怒川・川治温泉観光開発1号・2号及び小原沢市有源泉混合泉」を使用。
 ほとんどの宿が「源泉の供給量の不足を補うため加水」しています。

 加水していないほうが少なく、加水していない源泉100%は、
 「鬼怒川温泉オートキャンプ場上滝乃湯」 加水なし
 「花の宿松や」 加水なし
 「鬼怒川観光ホテル」 内湯は加水ですが、露天風呂は加水なし。
 「伊東園ホテルグリーンパレス」(休館) 加水なし
 「鬼怒川グランドホテル夢の季」 貸切露天風呂のみ加水ないようです(未確認)。
 「御宿一富士」 内湯加水なし(加温、循環、塩素あり)。露天風呂は「加温のみ」かけ流し。
 「鬼怒太の湯」 加水なし。(鬼怒子の湯は加水あり)
 「温泉自動販売機」 加水なし、加温のみ。

温泉販売所> 日光市鬼怒川温泉大原1395-47 0288-77-2221

 温泉自動販売機があります。
 
 利用者激減で、以前、下野新聞で記事になりました(2010年)。
 「温泉スタンド利用、ピークの1割に激減 高齢化で運べない? 鬼怒川温泉
  温泉スタンドの利用がジリ貧状態だ。ピーク時には年間24万リットルを超えたが、
  2009年度は約1万8千リットルと9割以上も激減した。
  利用者の高齢化で自力運搬できる人が減ったのも一因らしい。
  同社は「PR不足の面は否めない。反省すべき点だ」として、
  関連施設などにチラシを置き利用増を目指している。」(概略)

  現在は全くPRしていませんね。

    

<小原沢市有源泉:湧出地>
  
 小原沢にある源泉湧出地。意外に小さな貯湯タンクです。廃湯はありません。

    

     


○産業再生機構が再生した栃木県内の温泉旅館群

 ・株式会社あさやホテル
 ・鬼怒川グランドホテル株式会社
 ・有限会社鬼怒川温泉山水閣(鬼怒川プラザホテル)
 ・金谷ホテル観光株式会社(鬼怒川温泉ホテル、鬼怒川金谷ホテル)
 ・株式会社ホテルニュー塩原
  (ホテルニュー塩原、ホテルニュー塩原B&H館、ホテルニュー塩原滝見の宿
   鬼怒川ホテルニュー岡部キングパレス、鬼怒川ホテルニュー岡部クイーンタワー)
 ・株式会社鬼怒川観光ホテル水明(鬼怒川観光ホテル別館、鬼怒川観光ホテルひがし館)
 ・株式会社奥日光小西ホテル(アメリカ投資会社GRBの経営に移管)
 ・有限会社釜屋旅館
 ・株式会社金精(ホテル花の季)
 ・株式会社ホテル四季彩
 ・有限会社田中屋

  鬼怒川温泉が多いですね。
  巨大温泉ホテルが産業再生機構等の支援で再生されてきた中、
  産業再生機構の支援の有無による不公平感が旅館等にあり、
  また、地域全体の底上げには至りませんでした。
  小さなところは活性化されず、減る一方なのが残念です。


自家源泉の宿
観光開発源泉使用宿等


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